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ドライアイの定義と診断基準

ドライアイの定義と診断基準

2016年、ドライアイ研究会のメンバーによって、2006年度版の「ドライアイの定義・診断基準」の見直しを行い、2016年度版の「ドライアイの定義・診断基準」を発表しました。

最新のドライアイの定義・診断基準(2016年度版)

【ドライアイの定義(2016年, ドライアイ研究会)】

ドライアイは、様々な要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり、眼不快感や視機能異常を生じ、眼表面の障害を伴うことがある

【ドライアイの診断基準】

BUT*5秒以下かつ 自覚症状(眼不快感または視機能異常)を有する

*フルオレセイン染色による

【1】定義と診断基準の改定に至った経緯

2016年にドライアイの定義および診断基準委員会の合意によってドライアイの定義と診断基準が改定されました。ドライアイ研究会では1995年に第1回の定義と診断基準を定め、2006年に改定を行い第2回の定義と診断基準を提唱してきました。今回10年ぶりに新しく改変を行いましたので、これに至る経緯と考え方について解説してみたいと思います。
2006年の診断基準においては、1)涙液異常、2)角結膜上皮障害 および 3)ドライアイ症状の3つを満たしてドライアイ確定例と診断することが定められました。ところが過去20年以上に及ぶ研究により、角結膜上皮障害がなくても涙液層の安定性低下を持つだけで、重症の涙液減少型ドライアイと同程度の症状を示すドライアイ患者群が存在することがわかってきました。
歴史的にこれらのドライアイ患者は“涙液層破壊時間短縮タイプのドライアイ:short BUT (sBUT) type dry eye”として、2006年の診断基準においてはドライアイ確定とならず、ドライアイ疑い(涙液異常とドライアイ症状の2つの項目を満たす)と診断されてきていました。このsBUTタイプは次第にドライアイの多くを占める事が明らかにされてきており、その事は、大阪スタディをはじめとする疫学研究によっても裏付けられています。また、世界的にもSteve Pflugfelder先生や、Scheffer Tseng先生らによっても涙液層の安定性低下がドライアイの発症において最も重要であることが示されてきています。
また、近年、ドライアイがうつ病やpost traumatic syndrome、睡眠障害、不幸せ、ストレス障害などとも関連することがわかってきましたが、これらを背景に持ち、眼不定愁訴を訴えるドライアイは、これまで、シェーグレン症候群などの重症涙液減少症型ドライアイより、軽症と考えられてきました。しかし、実際のところは、症状からすると決して軽症ではなく、sBUTタイプとも関連することがわかってきています。
さらに、ドライアイにより視機能の低下が引き起こされること、および、そのメカニズムとして涙液層の安定性低下が関与することが分かってきました。すなわち、ドライアイの本質的異常は、シルマーテストによって評価可能な涙液分泌機能や、生体染色によって評価可能な角結膜上皮障害よりも、涙液層の安定性低下であることがわかってきています。そこで、ドライアイの定義ならびに診断基準を見直す必要が生じ、この度の改定に至りました。

【2】診断基準のポイント

重要ポイントはBUTが5秒以下、かつドライアイ症状があればドライアイと確定診断されることです。一方シルマーテストが5mm以下でもBUTが5秒を越えていれば(この状況は非常にまれですが)、ドライアイ症状があってもドライアイと確定診断できません。また、ドライアイ症状がない場合にもドライアイの確定診断はできません。現在、ドライアイ症状についてはさまざまなディスカッションが行われており、BUTが5秒以下でも症状のない人が多数存在することより、ドライアイの病態の一部には、涙液層の安定性の低下ばかりでなく“角膜の知覚異常”すなわち、角膜の知覚低下や、逆に、角膜の知覚過敏、すなわち、Neuropathic Pain(神経因性疼痛)のメカニズムが働いていると考えられるようになってきています。この領域についてはこれから大きく進歩していくものと思われます。さらに特筆すべきは、今回のドライアイ診断基準の改定は日本だけにとどまらず、アジア諸国の合意も得られたことです。2017年にOcular Surface誌に掲載されたアジアドライアイソサエティの診断基準は日本の診断基準と同じであり、日本発信の考え方がアジア諸国に理解されたものと考えています。また、この考え方は、TFOT(眼表面の層別治療)に示されているように、涙液の水分減少であれ、MGD(マイボーム腺機能不全)による脂質成分の異常であれ、膜型ムチンの異常であれ、涙液層の安定性の低下こそがドライアイの病態の中心であり、治療は涙液層の安定性の低下を引き起こす、眼表面の不足成分に対して向けられているべきだという考え方になります。さらに最近、京都府立医科大学の横井則彦先生の涙液層の破壊パターン分類によってドライアイのサブタイプが判別できる[眼表面の層別診断(TFOD)]ことがわかってきており、大きく診断と治療の分野が進歩しつつあります。
ドライアイの本態は涙液層の安定性の低下にあります。眼表面は、涙液層と表層上皮からなり、涙液層の各層や表層上皮に異常が起きると涙液層の安定性が低下します。TFOD & TFOTとは、涙液層の安定性を低下させている眼表面の不足成分を看破(TFODに相当)して、成分補充で涙液層の安定性を最大限に高めてドライアイを治療(TFOTに相当)しようとする考え方と言えます。

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「ドライアイの定義と診断基準(2016)」

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