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眼科クリニックにおけるドライアイ受療患者の実態調査を行いました

眼科クリニックにおけるドライアイ受療患者の実態調査を行いました
多施設共同による横断研究 DECS-J: Dry Eye Cross-sectional Study in Japan

~はじめに~

 ドライアイは幅広い年齢層で認められる有病率の高い慢性疾患です。しかし、2014年当時、ドライアイで医療機関を受診する患者のタイプとその割合、治療内容などの実態は把握されておらず、以降の診療ガイドライン構築や、検査法・治療薬の充実のためにも、多施設共同による横断的な調査が必要とされていました。
 そこで2014 年12 月~2015 年2 月にかけて全国各地域における実態調査を行い、その後解析結果を複数の論文に分けて発表いたしました。


DECS-J(Dry Eye Cross-sectional Study in Japan)とは:

眼科クリニックにおけるドライアイ患者の、「タイプ」「割合」
「治療内容」等を多施設共同で行った実態調査である。



主体:
ドライアイ研究会・参天製薬株式会社(共同研究)
試験デザイン:
横断研究(観察研究)
期間:
2014 年12 月~2015 年2 月
組み入れ基準:
20歳以上 ドライアイ(加療・未加療問わず)

実施施設:
国内各地域から選んだドライアイ研究会会員の眼科クリニック10 施設 
各施設最大50例まで連続登録

 1. 北1条田川眼科(田川 義継)
 2. 赤坂東急クリニック 島崎眼科 (田 聖花)
 3. 両国眼科クリニック(岩崎 美紀)
 4. 齋藤眼科医院(齋藤 博)
 5. いしだ眼科(石田 玲子)
 6. 四条烏丸眼科 小室クリニック(小室 青)
 7. イワサキ眼科医院(岩崎 直樹)
 8. 松本眼科(松本 治恵)
 9. はなみずき眼科(五藤 智子)
 10.きよさわ眼科(清澤 敦子)
 

研究担当者:
山田 昌和(杏林大学)・重安 千花(杏林大学)・
横井 則彦(京都府立医科大学)・川島 素子(慶應義塾大学)・
坪田 一男(慶應義塾大学)

~主な研究結果~

一般的なドライアイ(DE)の病態は「涙液減少型」と「BUT短縮型」でした。

 全体では、患者の94.9%がBUT(涙液層破壊時間)は5秒以下で、54.6%が涙液の分泌減少 (Schirmer I法5mm以下)を示しました。
 ドライアイのサブタイプ(担当医の判定による)では「涙液減少型ドライアイ」が全患者の35.0%、次いで「BUT短縮型ドライアイ」が26.7%に認められました。

Kawashima M, et al: Adv Ther. 2017 Mar;34(3):732-743.


「BUT短縮型ドライアイ」のQOLに対する「DEQS」「HUI-3」評価数値と、
「涙液減少型ドライアイ」の評価数値に大きな差異はありませんでした。

 DEQS(Dry Eye-related Quality of Life Score Questionnaire)はドライアイに特化したQOLや疾病負担の調査票であり、HUI-3(Health Utilities Index Mark3)は全身疾患にも用いられる汎用型のQOL調査票です。全参加者のDEQSとHUI-3の中央値(四分位範囲)は、それぞれ表の通りで、「涙液減少型」と「BUT短縮型」には大きな違いは見られないことがわかりました。
 これは、「BUT短縮型ドライアイ」の自覚的重症度や疾病負担は「涙液減少型」と同等であり、日常生活に及ぼす影響を認識すべきであることを示唆しています。


全体 涙液減少型ドライアイ BUT短縮型ドライアイ
DEQS 21.7 (10.0-40.0) 23.3 (10.0-40.0) 23.3 (13.3-38.3
 目の不快感 29.2 (16.7-47.9) 33.3 (16.7-50.0) 29.2 (20.8-45.8)
 日常生活への影響 13.9 (5.6-36.1) 13.9 (5.6-36.1) 16.7 (5.6-33.3)
HUI-3 0.82 (0.69-0.91) 0.79 (0.69-0.88) 0.82 (0.74-0.92)

Shigeyasu C et al. Health and Quality of Life Outcomes. 2018 Aug 31;16:170

「マイボーム機能不全(MGD)」「摩擦疾患(FRD)」がBUTを
短縮させていることが分かりました。

「MGD」「FRD」、またはその両方が合併している場合、ドライアイの状態やサブタイプに関わらず、BUTの数値が短縮していることがわかりました。なお、MGD以外の眼症状はBUTに影響はしていませんでした。ドライアイの直接的な病因でなくとも、MGDやFRDの存在は病態を悪化させる要因となることが示されました。

Chi Hoang Viet Vu et.al, American Academy of Ophthalmology,2018 Aug;125(8):1181-1188

ドライアイの「眼症状」と「全身疾患(うつ病・不眠症)」との関連性が
示されました。

全身疾患の有病率は48.8%(219/449)でした。
「Schirmer I法」「TBUT」「角結膜染色スコア」「DEQS」「HUI-3」 を用いて調査を行ったところ、特に「TBUT」と「うつ病」「不眠症」と有意に相関関係があることがわかりました(表におけるハイライト箇所)。
この研究では、相関関係は示されましたが、因果関係(どちらが原因でどちらが結果か)はわかっていません。しかし、うつ病・不眠症とドライアイ疾患が悪循環を引き起こす可能性があることが示され、診断や投薬の際には眼科医・精神科医それぞれが留意する必要があることがわかりました。

Kawashima M et.al J. Clin. Med. 2020 Jun 29;9(7):2040.

「Breakup Pattern(BUP)」はドライアイのサブグループ判定に有用な
臨床ツールである可能性があることがわかりました。

・Line Break(LB)の患者は短いBUT(グラフA)と高い角結膜染色スコア(グラフD)を示しました。
・Area Break(AB)の患者は短いBUT(グラフA)、非常に高い角結膜染色スコア(グラフD)・角膜染色スコア(グラフC)を示しました。
・Spot Break(SB)の患者はBUT(グラフA)が短く、若年層でした。
・Dimple Break(DB)患者は角結膜染色スコア(グラフD)が低値でした。
・Random Break(RB)の患者はBUT(グラフA)が長く、角結膜染色スコア(グラフD)が低値で、若年層が多くみられました。

 DEDサブグループの中で、LBとABは涙液減少型ドライアイの74.7%を構成しました。SBとDBはBUT短縮型ドライアイの42.4%を構成しました。以上のことからBreakup Pattern(BUP)はドライアイのサブタイプの判定に有用なツールであり、サブタイプ別、個別化した治療選択の指標となると考えられました。

Shigeyasu C et.al J. Clin. Med. 2020 Sep 17;10(9):711.

まとめ

 本研究からクリニックにおけるドライアイの病態やBreakup Patternとの関係性、そして、ドライアイのQOLの評価を定量的に行うことなど様々な結果を見出すことができました。

DECS-Jの研究結果(論文URL)

  1. A Clinic-based Survey of Clinical Characteristics and Practice Pattern of Dry Eye in Japan
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28181147/
    (2017 Mar)
  2. Quality of life measures and health utility values among dry eye subgroups
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30170606/
    (2018 Aug 31)
  3. Influence of Meibomian Gland Dysfunction and Friction-Related Disease on the Severity of Dry Eye
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29459039/
    (2018 Aug)
  4. Association of Systemic Comorbidities with Dry Eye Disease
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32610609/
    (2020 Jun 29) 
  5. Characteristics and Utility of Fluorescein Breakup Patterns among Dry Eyes in Clinic-Based Settings
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32957707/
    (2020 Sep 17)